リモート環境下の従業員メンタルヘルス:内向型・外向型が感じるストレスとその軽減策(組織編)
リモートワークが働き方の選択肢として定着する中で、従業員のメンタルヘルスケアは組織にとって重要な課題となっています。特に、リモート環境は個々の性格特性、すなわち内向型や外向型といった気質によって、感じるストレスの種類や大きさが異なり得るからです。
人事部マネージャーの皆様は、チームメンバーの多様な働き方を支援し、エンゲージメントや生産性の向上を目指す上で、こうした個性の違いがメンタルヘルスに与える影響を理解し、適切なサポート体制を構築することが求められています。本稿では、リモートワークにおける内向型・外向型それぞれのストレス要因を分析し、組織として実践できる具体的な軽減策について解説します。
リモートワークで内向型・外向型が感じやすいストレス
まず、内向型と外向型が一般的にどのような特性を持ち、それがリモートワーク環境下でどのようなストレスにつながりやすいかを見ていきましょう。
内向型が感じやすいストレス
内向型の人々は、一人で集中して作業することに長け、深い思考や限られた人間関係での交流を好む傾向があります。エネルギーを消耗しやすいため、充電には一人の静かな時間が必要です。
リモートワーク環境下では、以下のような点がストレス要因となり得ます。
- オンライン会議の負担: 画面越しの大人数でのやり取りは、内向型にとって対面以上にエネルギーを消耗させることがあります。発言のタイミングを掴みにくかったり、常に画面に映る状態がプレッシャーになったりすることもあります。
- 境界線の曖昧さ: 自宅が職場となることで、仕事とプライベートの切り替えが難しくなり、静かに一人で過ごすための「充電時間」が確保しにくくなることがあります。
- 非同期コミュニケーションの難しさ: テキストベースのコミュニケーション(チャット、メール)では、意図が正確に伝わりにくく、誤解が生じることへの不安を感じやすい場合があります。また、すぐに返信しないことへの無言のプレッシャーを感じることもあります。
- 孤立感: 物理的な距離があることで、偶然の雑談や何気ない交流が減り、チームから切り離されているような孤立感や疎外感を覚える可能性があります。
外向型が感じやすいストレス
外向型の人々は、他者との交流からエネルギーを得ることが多く、活発なコミュニケーションや多様な人との関わりを好みます。思考を整理するために、声に出したり、他者と話したりすることもあります。
リモートワーク環境下では、以下のような点がストレス要因となり得ます。
- 対面交流の欠如: オフィスでの偶発的な会話やランチタイムの交流といった、日常的な対面での「充電機会」が大幅に減少することで、エネルギーレベルが低下し、モチベーションを保つのが難しくなることがあります。
- 刺激の不足: 新しい人との出会いや、多様な情報が自然と耳に入ってくる機会が減り、単調な作業に飽きやすくなることがあります。
- 孤独感: 一人で長時間作業すること自体が苦痛に感じられ、物理的な距離が精神的な孤独感に直結する場合があります。
- 非同期コミュニケーションへの不慣れ: テキストベースのコミュニケーションよりも、即座の反応や活発な会話を好むため、非同期コミュニケーションにフラストレーションを感じることがあります。
組織としてできる具体的なサポート策
内向型と外向型、それぞれがリモートワークで感じやすいストレスを理解した上で、組織としてどのように多様な個性のメンタルヘルスを支援できるでしょうか。ここでは、具体的な施策を提案します。
内向型向けのサポート策
内向型の人々がリモート環境で安心して働き、エネルギーを保つためには、「静かな時間」と「コントロール感」を提供することが重要です。
- 「集中時間」の推奨とルール設定: チーム内で、特定の時間帯(例:午前中の2時間)は会議を入れず、各自が集中して作業する時間とするルールを設けることを推奨します。この時間帯はチャットの即時返信義務もないなど、非同期コミュニケーションを基本とするのも効果的です。
- オンライン会議の最適化: 会議の目的とアジェンダを事前に明確に共有し、参加者を必要最小限にする、短時間で終える工夫をする、発言が苦手な人のためにチャットでの意見表明も積極的に促す、といった配慮を行います。可能であれば、全員がカメラをオンにするルールを見直すことも検討できます(本人の意思を尊重)。
- 非同期コミュニケーションの活用促進: チャットツールだけでなく、プロジェクト管理ツールやドキュメント共有ツールを活用し、情報共有や意見交換を非同期で行う文化を醸成します。これにより、リアルタイムのコミュニケーションが苦手な人も自分のペースで貢献できます。ツールとしては、Slack, Microsoft Teamsに加え、Notion, Asana, Trelloなどが活用できます。
- 少人数での交流機会の設定: 大人数での交流が苦手な内向型のために、少人数のブレイクアウトルームでの雑談タイムや、1対1のオンラインコーヒーチャットなどを設けることを提案します。
外向型向けのサポート策
外向型の人々がリモート環境でエネルギーを保ち、活力を維持するためには、「他者との緩やかな繋がり」と「刺激」を提供することが有効です。
- カジュアルな交流スペースの設置: バーチャルオフィスツール(例:Gather Town, Remo)や、常時接続されている気軽なオンラインスペース(例:特定のZoom/Teamsチャンネル)を設けることで、オフィスにいるような偶発的な雑談や声かけができる環境を提供します。
- オンラインでのアクティビティ推奨: バーチャルランチ、オンラインコーヒーブレイク、簡単なゲーム大会などを企画・推奨し、他者との交流機会を増やします。これらの活動は必須ではなく、気軽に参加できる形式が良いでしょう。
- プロジェクトを跨いだ緩やかな連携の仕組み: 異なるチームやプロジェクトのメンバーが、情報交換や意見交換ができる機会を設けます。例えば、特定のテーマに関する非公式なオンラインコミュニティや、隔週での部門横断シャッフルランチなどを企画できます。
- 積極的なフィードバック文化の醸成: 定期的な1on1やカジュアルな声かけを通じて、メンバーの状況を把握し、成果や貢献に対してポジティブなフィードバックを積極的に行います。外向型は他者からの評価や反応によってモチベーションが高まることが多いからです。
組織としてできる共通のサポート策
内向型、外向型に関わらず、組織全体としてリモートワークのメンタルヘルスを支えるための基盤を整備することも不可欠です。
- 明確なガイドラインの設定: ワーキングアワー、休憩の取り方、オンラインステータスの使い方、チャットの応答時間など、リモートワークにおける基本的なルールや期待値を明確に定めて周知します。これにより、無用なプレッシャーや誤解を防ぎ、各自が自分のペースで働きやすくなります。
- メンタルヘルス相談窓口の周知・活用促進: EAP(従業員支援プログラム)などの外部相談窓口や、社内の相談体制がある場合は、その存在と利用方法を繰り返し周知します。管理職がこれらの情報を適切に伝えられるよう、研修を行うことも有効です。
- 定期的な1on1の実施: 上司と部下による定期的な1on1は、メンバーの状況を把握し、困りごとやストレス要因を早期に発見するための最も基本的な手法です。内向型、外向型それぞれが話しやすい雰囲気を作るためのマネジメント研修も重要です。
- 心理的安全性の高いチーム文化の醸成: 失敗を恐れずに意見を言える、助けを求めやすい、といった心理的安全性の高いチームは、メンバーが安心して働く上で非常に重要です。チームビルディング活動や、オープンなコミュニケーションを奨励するリーダーシップによって育まれます。リモート環境でのチームビルディングについては、内向型・外向型それぞれの特性を踏まえた工夫が必要です。
まとめ
リモートワーク環境下で従業員のメンタルヘルスを維持・向上させるためには、個性の違いによってストレスの感じ方が異なることを理解し、内向型と外向型それぞれに適した、あるいは共通のサポート策を組織として提供することが不可欠です。
静かな集中時間を確保しやすい環境を提供する、多様なコミュニケーション手段を用意する、カジュアルな交流機会を設ける、そしてメンタルヘルスに関する相談窓口を周知するといった具体的な施策は、多様な個性を持つ従業員がリモート環境でも自身の能力を最大限に発揮し、エンゲージメントを高く保つために寄与します。
人事部マネージャーとして、これらの視点を取り入れ、チームや組織の実情に合わせた柔軟なサポート体制を構築していくことが、変化の時代における組織の持続的な成長につながるでしょう。